誰かの声
一部40円のちいさなちいさな瓦版。
その裏表紙に誰かが投稿した詩が載っていた。
私はそれを切り抜いて取っておいたので、何という冊子で
何という方が創られた詩なのか、なんにも分からない。
それはずいぶんと世話になり、可愛がってくれたお隣のおばさんが
死ぬ前にくれたものだったが。たぶん母に。
私がただ、もうお日様に当たる体力も気力もなく、
一日中雨戸も締め切って、死んだように息をしていただけの頃。
『この私の人生を 他のだれとも 代わりたいとは思わない』
そう書いてあった。
それは、私の目が見て、頭の中で意味を理解したものなのに、
私はこの『』を読んで聞かせてもらったように、
誰かの声で、確かに聞いたような気がしてならない。
この裏表紙を見ずに捨てていても生きていただろう。
でもこの声は間違いなく私をここに繋いでいる。
この私で生きている、それが証拠。
この作者にお礼を伝えることはできないが、
きっとそんなものなんだろう。恩を売る仕事だけはしてはいけない。
いつか自分のしていることが、何かの役に立って、時が経ち、
どこか自分の知らない場所で、「誰かの声」のように
知らない人を勇気づけるのかもしれない。
もうそれに勇気づけられる。